続・味付け茹たまご


先日書いた味付け茹たまごに関して、こんなメールを頂いた。

> 「味付きゆで卵」ですが、F&Fで見てから私も不思議に思い実験をしたことが
> あります。
> 「塩酸」ですが、、、、これは食品であることを考えると、とても「食品業者」
> が日常的につかっているとは思えません。
> (扱いはそんなに難しいものではありませんが一応「劇物」ですし。)
>
> ここで、考えられるのが「酢」だと思えるんです。

《中略》

> 自分で、10分酢で表面を溶かし、15分濃いめ(ここらが適当?)の塩水で
> ゆでたところ、塩味が付いたような気がしたのですが、、、、、子供らに横から
> 食われてしまい。結果が明確ではありません。
>
> この辺を是非検討していただければと思います。



なるほど。食品加工業者が、どのようにして商品としての塩味ゆで卵を作っているかは知らないが、確かに、塩酸で処理すると聞くけば、気持ち悪いイメージを抱く人も多いかも知れない。決して反論と言うことではないのだが、塩酸で処理することについて色々と考えてみた。

実際のところ、塩酸は医薬用外劇物には指定されているが、それは毒性を意味しているのではない。塩酸自体に大した毒性はないと思うし、反応後に生成すると思われる塩化カルシウムも大丈夫だろう。内部の卵は殻や薄い膜にも守られているし、仮にそれらの物質が残留していたとしても微量だから影響も知れているだろう。卵殻を溶かす程度だったら薄い塩酸で十分だし、塩酸なんて人間の胃にあるものだから、それをちょっと食っただけで死ぬほど人間ヤワじゃない...ハズ。(LD50とかは手元に資料が無いので割愛)

いや、食品業者は商売でやってるんだから、科学的見地よりもナニワ商魂的見地から、製造原価の縮小=利益拡大も考えなければならない。何しろ、塩酸は安い。食酢は仮にも食品だから、それなりに高価だ。近所の市場で調べたところ、ミツカンの一般的な穀物酢の小売価格は500mlで150円ほど。値段の幅は広く、倍ぐらいの値段のものもあった。まあ、卵の殻を溶かす程度ならば、味なんかに拘る必要も無いし、安い酢を大量に仕入れれば、値段も大したことないやん...と思った人は、まだまだ甘い。

なぜなら、世の中には商売柄、塩酸が余ってしまって困り果てている業者もあったりするのだ。



上図は、メタン塩素を反応させた例だ。関係ないが、同じことを3度やってメタンに塩素を3個くっつけたものが、どう言う訳か有名なクロロホルム。んで、実際に塩化メチルを工業的に量産しているのかどうかは疑問だが、似たようなことは確実に量産的に行われている。上図からも分かるように、適当な有機物に塩素をくっつけようとすると、嫌でも塩化水素が生成しちゃうわけだ。そして、その塩化水素を水に溶かしたものが、いわゆる副生塩酸と呼ばれる種の塩酸である(工業用塩酸も同じものだと思う)。

それで、副生物だからもってけドロボーことで、また格安なのだ。専門外なのであまり詳しいことは知らないが、聞くところによると、タンクローリー単位で買った場合は、1キロあたり数十円の世界だとか。ただ、他の物質の製造過程で副生するものなので純度があまり良くない。そこで、純粋な塩酸が必要な場合は塩素と水素を燃やして純粋な塩化水素作り、それを水溶したものを用いる。試薬用の塩酸なんかは、こっちの方かな。


きゃー、おもいっきり脱線した。食酢で塩味ゆで卵ができるかどうかを検証することが第一の目的だったはずだが、つい塩酸について語ってしまった(なんでやねん)。いつもの通り、実験だ。



まずは、材料を用意した。食酢と食塩、それから味の素もあるが、今回は使わなかった。市販の塩味ゆで卵にはアミノ酸の表示もあるので、味の素も殻を透過するはずだと思うんだが、これはまたの機会にでもやりたい。



頂いたメールにあったように、10分ほどお酢に漬ける。すぐに泡が出てきて殻に付着し、反応が止ってしまうので揺すって泡を取ってやる必要があった。



食酢処理した生卵を飽和食塩水で茹でた。鍋の周りに付着している白っぽい結晶は、食塩の結晶だ。食塩水は多分20%ぐらいが限界だと思うが、温度を上げればもうちょっと溶けるし、当然ながら茹でている過程で水が蒸発すると結晶してしまう。



そして、茹でること15分ほど。圧力鍋で茹でた時のように、白身の表面が変色してしまった。なぜか分からないが、取り敢えず食ってみる。お、ちゃんと塩味になってるね。お酢の匂いもしないし、塩をかけなくても美味しいゆで卵だった。



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